Last Update:02/09/28

「偏に竜の名に恥じず」

「竜馬がゆく」7巻 いろは丸 より


龍馬は維新後、その伝記作者によって「汗血千里駒」という評語をうけた。

汗血というのは「漢書」の武帝紀にあることはで、アラビア産の名馬のことである。

血のように赤い汗をかく、というところから出た言葉だ。

が、それはいい。

とにかく天保六年うまれの、もはやさして若くもなくなっているこの男は、このころからその名のように千里を駈けまわる超人的な活動ぶりを示しはじめていた。

竜馬は数えて三十三歳である。十代の初期は痴児にちかく、二十代の初期は愚鈍の風貌があり、当時のかれを知る者は、三十三のこんにちの竜馬を、別人としか思えなかったであろう。

もっとも、例外はあった。

かれの盟友の武市半平太のみは二十代初期のころの竜馬を見ぬいて、「土佐の田舎にはあだたぬ者(間尺にあわぬ者)」と評し、この思想を異にした年下の友人のために美しい詩をつくった。

 
 
肝胆元(もと)より雄大

奇機おのずから湧出す

飛潜す、たれか識(し)るあらん

偏(ひとえ)に竜の名に恥じず

 
 
そうは見てくれたが、これは当時、竜馬の仲間でさえ、「竜ノ字にはほめすぎの詩じゃ」といって一場の座興にしてしまったほどだった。

郷党の友人の多くは竜馬をさほどには評価しなかったし、それも当然なところもあった。

多くの同志が、天誅の血に酔っているときに、この天才的な剣客は、航海術に熱中していた。

およそ激動する時勢と歩調があわず、一見、道草を食っている駄馬にみえた。

竜馬が、武市の予言した、「偏に竜の名に恥じず」といった活動を開始するにいたるのは、三十を越えてからのことである。


竜馬がゆく FUSEが心から推薦する一冊です。
是非読んでみてください。

「竜馬がゆく」
文春文庫
定価 552円

 

依光感想
 
武市半平太の龍馬への友情が分かる文章でとても好きなエピソードです。

人の才能を見抜き、評価して、勇気づける。

誰にもできることではありません。

FUSEも学びたいと思います。

 
 
 
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